Story03

幼い少女の真っ赤な宝石

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幼い少女の真っ赤な宝石

あれは、たしか春。
わたしは5つか6つくらいの幼い少女で、その日はお気に入りの深いグリーンのワンピースを着ていた。
胸には苺とミツバチの刺繍がしてあって、わたしはそれが何よりも好きだった。
その日、わたしは母とふたり森に出かけた。まだ春は始まったばかりだというのに、汗ばむほどの陽気だった。
母とわたしは、歌を歌ったり、時折口笛を吹いて歩いた。雲ひとつない青空が、わたしたちの頭上高くに広がっていて、森の木々たちはそこにひっそりと影を落としていた。
「もりのくまさん」を歌い終えた頃、目の前にぽっかりと開けた空間が現れた。母は昔の親友に会ったような、そんな表情を浮かべていた。
切り株に腰掛け、母が『はい。これ好きでしょ?』と言って、バスケットの蓋を開けた。
そこには、真っ赤な苺がたくさん入っていて、まるで宝石のようだった。
幼いわたしは、ただ『おいしいね』と繰り返すだけだったけれど、本当はもっと言葉にしたいことがあったんだ。

今は言える。
そう。
わたしは、あなたの娘で良かったって。

今度はわたしがご馳走するよ。
みずみずしくて甘酸っぱい、とびっきり美味しい苺をね。


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